PITAVA(ピタバ)事件(第1判決)|newpon特許商標事務所

商標登録ならおまかせください

薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否 PITAVA(ピタバ)事件(1)

知財高判 2015(H27)・6・8 H26(ネ)10128号 商標権侵害差止等請求事件

(原審 東京地判2014(H26)・10・30 H26(ワ)773号 裁判所HP)

事実の概要

 控訴人は、ピタバスタチンカルシウムを有効成分とするコレステロール低下薬の後発医薬品メーカーであり、商品「薬剤」について登録商標「PITAVA(標準文字)」(以下「本件商標権」という。)を有している。
 控訴人は、被控訴人による被控訴人各標章,あるいは被控訴人各全体標章(被控訴人各全体標章は,それぞれ横書きの「ピタバ」と「スタチン」を上下二段に配して成る標章であり,被控訴人各標章は,被控訴人各全体標章からそれぞれ「ピタバ」の部分を抜き出したものである。)を包装に付しての薬剤の販売が,本件商標権を侵害するとして,商標法36条1項及び2項に基づき,被控訴人標章のいずれかを付したPTPシートを包装とする薬剤の販売の差止めた事案である。

 原審は,①被控訴人各標章の部分のみを被控訴人各全体標章とは独立した標章と解することはできず,被控訴人が使用しているのは被控訴人各全体標章である,②本件商標と被控訴人各全体標章は,「ピタバ」の称呼を共通にし,需要者等のうち医療従事者には同一の観念(ピタバスタチンカルシウムという名称の,還元酵素阻害薬である化学物質。以下「本件物質」という。)を想起させ,患者に対してはいずれも特段の観念を想起させないことから,両者は類似すると解する余地がある,③本件商標は,指定商品のうち本件物質が含まれない薬剤に使用した場合は需要者等が当該薬剤に本件物質が含まれると誤認するおそれがあるので,法4条1項16号に該当し,無効審判により無効とされるべきものである,として,控訴人の請求を棄却した。

 控訴人は,本件商標権について、指定商品を
「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするもの(登録第4942833号の1)と,
「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とするもの(登録第4942833号の2。以下「本件商標権2」といい,これに係る商標を「本件商標2」という。)
に分割し,本件商標権2に基づき控訴の趣旨記載の請求をする旨の訴えの交換的変更を行い,被控訴人はこれに同意した。

商標登録ならおまかせください

判 旨

 控訴棄却。
 本件訴訟の主たる争点は、被控訴人各標章の使用の有無(争点1)と法26条1項2号該当性(争点3)である。本判決は、被控訴人各標章(別紙被告標章目録記載1~3の各標章)の使用を否定し、被告各全体標章(別紙被告標章目録記載4~6の各標章)について、指定商品の原材料を普通に用いられる方法で表示するものであるので商標権の効力は及ばないとし、請求を棄却した。

ピタバ
(被告標章目録)

 被控訴人各標章の使用の有無(争点1)

 被告各標章は,被告がPTPシートに付している「ピタバスタチン」の文字から成る被告各全体標章の「ピタバ」の文字部分であるが,別紙被告標章目録記載4~6のとおり,被告各全体標章の「ピタバ」部分と「スタチン」部分は接着して配置され,PTPシートにおける被告各全体標章の配置(乙3)に照らしても,「ピタバ」部分と「スタチン」部分は一つのまとまりをなしており,「ピタバ」部分のみを独立した標章と解することはできない。
 以上によれば,被告各標章は被告が使用している標章の一部を恣意的に抜き出したもので,被告が使用しているのは被告各全体標章であると解するのが相当であるから,被告各標章についての原告(控訴人)の主張は採用できない。(原審引用)

商標登録ならおまかせください

 法26条1項2号該当性(争点3)

 医療従事者にとっては,「ピタバ」の語は,少なくとも「ピタバスタチン」の語の一部として,あるいはこの語とともに用いられる場合には,明らかにその略称であると解されるから,かかる構成であることをもって,被控訴人各全体標章から本件物質を想起することが妨げられるということはできない。・・・ 被控訴人各商品のPTPシートには,被控訴人各全体標章のほか,横書き一段の「ピタバスタチン」の記載があり,これと外箱における販売名の記載などを併せて見ると,被控訴人各全体標章が「ピタバ」ではなく「ピタバスタチン」を表したものであると認識することは,医療従事者にとっては容易であるということができる。

 そうすると,結局,医療従事者にとって,被控訴人各全体標章を見たときには,一体として「ピタバスタチン」を表していること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,「ピタバスタチン」の略称として用いられているのにすぎないこと)を,容易に理解することができるというべきである。

 次に,患者にとっては,被控訴人各商品は,いずれも処方箋医薬品に指定されているから,医師等の処方箋なしにこれを購入することはできず,医師から薬剤の処方を受ける際には,少なくともどのような性質でどのような効能を持った薬剤を処方されるか等について説明を受け,被控訴人各商品を購入する際には,薬剤師から,被控訴人各商品の性質や効能,購入する商品が,その有効成分である本件物質の一般的名称や慣用名,あるいは販売名を成す「ピタバスタチン」あるいは「ピタバスタチンカルシウム」であるとの説明を受けることが一般的であると考えられることは,前記イにおいて説示したとおりである。
 仮にPTPシートを一錠ずつに切り離したとしても,表面には必ず横書き一段の「ピタバスタチン」の語が付されていることとなることなども併せてみると,患者において,被控訴人各商品に付された被控訴人各全体標章が,一体として「ピタバスタチン」を指すものであること(あるいは,「ピタバ」の部分のみを取り出した場合には,それが「ピタバスタチン」の一部を取り出した略称にすぎないこと)を,さしたる困難もなく理解することができるというべきである。

 したがって,被控訴人各全体標章は,取引者や需要者において,全体として「ピタバスタチン」を表示するものとして認識されるか,又は「ピタバスタチン」の略称と容易に理解することができる語としての「ピタバ」を表示するものとして認識されるものということができるから,その表示は,「普通に用いられる方法で表示する」ものの域を出るものではないと認められる。

 以上によれば,被控訴人が被控訴人各商品のPTPシートに付して使用している被控訴人各全体標章は,本件商標権2の指定商品の原材料である「ピタバスタチン」を,普通に用いられる方法で表示するものと認められるから,商標法26条1項2号に当たり,これに対し,控訴人の有する本件商標権2の効力は及ばないというべきである。

検 討

 結論には賛成。判旨1及び2には疑問がある。

商標登録ならおまかせください

 判旨1

  被控訴人が「ピタバ」の文字から成る被告各標章を使用しているとの控訴人の主張に対し、本判決は、被告各全体標章の「ピタバ」部分と「スタチン」部分は接着して配置され,「ピタバ」部分と「スタチン」部分は一つのまとまりをなしており,「ピタバ」部分のみを独立した標章と解することはできないという理由で,被控訴人が使用しているのは被告各全体標章であり,被告各標章についての使用は否定した。

 しかしながら、被告各標章を使用は明らかに商標法上の標章の使用(法2条3項各号)であり、疑問である。

 判旨2

 「被控訴人各全体標章と本件商標2の類否の点(争点2)をしばらく措き,」被控訴人の抗弁について,抗弁理由を認めたものである。

 ここでは、需要者の範囲が問題となる。本判決は、医療従事者のみならず患者も需要者に含まれるとしている点は賛成である。薬局において薬を購入する際、最終決定権は患者にあるからである。

 しかしながら、たとえ、医師から薬剤の処方を受ける際に,薬の性質や効能について説明を受け,購入の際には,薬剤師から,商品の性質や効能,その有効成分である本件物質の一般的名称や慣用名(「ピタバスタチン」あるいは「ピタバスタチンカルシウム」)の説明を受けることが一般的であるとしても、患者が,被控訴人各全体標章が,一体として「ピタバスタチン」を指すものであることを,理解することは一般的には困難であろう。

以 上

 高等裁判所・知財高裁・控訴事件裁判についてご相談を承ります。

 個人情報のお取扱いについてホームページ利用規約↑ ページトップに戻る← 前のページに戻る