包装用箱事件(部分意匠)|newpon特許商標事務所

部分意匠の類否と当該部分の用途機能の類否 包装用箱事件

知財高裁判 2016(H28)・1・27 H27(ネ)10077号 意匠権侵害差止等請求事件

(原審 東京地判2015(H27)・5・15 H26(ワ)12985号 裁判所HP)

事実の概要

 本件は,意匠に係る物品を包装用箱とする意匠登録第1440898号の意匠権(本件意匠権)を有する原告が,被告に対し,被告による被告商品の生産,譲渡,引渡し,譲渡の申出(以下「販売等」という。)が,本件意匠権を侵害すると主張して,意匠法37条1項に基づき,被告商品の販売等の差止め,同条2項に基づき,被告商品及びこれに使用した各包装用箱の廃棄,同法41条に基づき,信用回復の措置として謝罪広告の掲載,並びに,同法39条3項に基づき,意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償金300万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

被告商品
(被告商品)
関連意匠
(包装用容器に関する登録例)

商標登録ならおまかせください

 意匠登録第1193959号〔甲8〕の意匠を本意匠とし、意匠登録第1194201号〔甲9〕が関連意匠として登録されている包装用容器に関する登録例があるのでので、本件意匠と被告意匠のアクセントパネルの具体的形状の差異は意匠全体の類否判断に影響しない旨の原審における原告の主張は、採用されなかった。

 原判決は,原告の請求をいずれも棄却した。これに対し,原告は,原判決が損害賠償請求を棄却した部分について,100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で原判決の変更を求めて一部控訴した。(上記の販売等の差止め,被告商品等の廃棄及び謝罪広告の掲載を求める部分については,当審において取下げにより終了した。)

判 旨

 控訴棄却。下記判旨において「美観」と表記されるのは判決文のとおり(意匠法上の「美感」とは異なる)。

 本件意匠と被告意匠の類否

(1) 本件意匠の構成態様
 前記前提事実及び証拠(甲2,乙9)によれば,本件意匠は,本件公報の【意匠に係る物品の説明】にあるとおり,「4面で形成される三角錐形状を基本形とした構造体の頂点と底面を形成する点とを2本の折れ曲がった線で結ぶことにより,新たにアクセントパネルとしての面が生まれ,多面体としての新しい見え方を可能にしている包装用箱」を本件意匠に係る物品とし,本件公報の【図面】の実線で示された部分意匠であるところ,その構成態様は,以下のとおりと認められる。

(基本的構成態様)
A 本体の基本形状を三角形4面で形成される略三角錐形状とし,
B 本体の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って,凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設け,
C 上記アクセントパネルを含む本件公報の【図面】の実線で示された部分を部分意匠とする。

(具体的構成態様)
a アクセントパネルは,当該稜線の縦方向中央を垂直に横切る谷折り線を底辺とし,天頂に位置する点を頂点とする二等辺三角形と,上記谷折り線を底辺とし,底面を形成する点を頂点とする二等辺三角形の2つの平坦面からなる二等辺三角形を,底辺部分で上下に接続させた略菱形状の面であり,
b アクセントパネルの上下中央部分(上記二等辺三角形の底辺部分)は,最もへこんだ最大幅部を形成し,
c アクセントパネルの縦の長さと中央部分(上記aの2つの二等辺三角形の底辺に当たる部分)の幅の比は,約8対1である。

(2) 本件意匠の要部
 そして,4面の三角形状で形成される略三角錐形状をした包装用箱の意匠それ自体は,少なくとも本件意匠登録の出願前に日本国内において公然知られたものである(乙1,弁論の全趣旨)一方,略三角錐形状をした包装用箱の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って,凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設けた構成は,本件意匠登録の出願前に公知でなかったことに照らすと,本件意匠の要部は,上記の基本的構成態様を前提として,当該稜線の縦方向中央を垂直に横切る谷折り線を底辺とし,天頂に位置する点を頂点とする二等辺三角形と,上記谷折り線を底辺とし,底面を形成する点を頂点とする二等辺三角形の2つの平坦な二等辺三角形を,底辺部分で上下に接続させて略菱形状の面(アクセントパネル)を形成したこと(構成態様a),アクセントパネルの上下中央部分(上記二等辺三角形の底辺部分)は,最もへこんだ最大幅部を形成していること(構成態様b),アクセントパネルの縦の長さと中央部分(上記aの2つの二等辺三角形の底辺に当たる部分)の幅の比は,約8対1であること(構成態様c)にあると認めるのが相当である。

(3) 被告意匠の構成態様
 前記前提事実及び証拠(乙8,甲46添付の「イ号意匠(写真)」(本判決別紙2))によれば,被告意匠の部分意匠である本件意匠に相当する部分の構成態様は,以下のとおりと認められる。

(基本的構成態様)
A 本体の基本形状を三角形4面で形成される略三角錐形状とし,
B 本体の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って,凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設けた。

(具体的構成態様)
a アクセントパネルは,当該稜線の三角錐の天頂に位置する点と底面を形成する点とを,稜線の縦方向中央部分にかけてふくらむように円弧状の側辺で結び,当該稜線を中心線として円弧状の側辺が左右対称になった略紡錘形状の面であり,
b アクセントパネルの上下中央部分は,アクセントパネルに含まれない2つの頂点を結んでアクセントパネルを横断する折れ線部が水平方向に現れ,最もへこんだ最大幅部を形成し,
c アクセントパネルの縦の長さと中央部分の幅の比は約4対1であり,
d アクセントパネルは,包装用箱の開口部として配置されている。

(4) 類否
ア 共通点
 本件意匠と被告意匠は,本体の基本形状を三角形4面で形成される略三角錐形状とし,本体の天頂に位置する頂点から底面を形成する点に至る3本の稜線のうちの1本の稜線に沿って,凹状の面(アクセントパネル)を頂点間の全長にわたり設けたという基本的構成態様において共通する。また,アクセントパネルの上下中央部分は,最もへこんだ最大幅部を形成し,天頂部及び底面を形成する上下頂点へ向けて,徐々に先すぼまりとなっている点において共通する。

イ 差異点
 本件意匠におけるアクセントパネルの形状は,稜線の縦方向中央を垂直に横切る谷折り線を底辺とし,天頂に位置する点を頂点とする二等辺三角形と,上記谷折り線を底辺とし,底面を形成する点を頂点とする二等辺三角形の二つの二等辺三角形を,底辺部分で上下に接続させて略菱形状としているのに対し,被告意匠は,稜線の三角錐の天頂に位置する点と底面を形成する点とを,稜線の縦方向中央部分にかけてふくらむように円弧状の線で結び,当該稜線を中心線として円弧状の線が左右対称になった略紡錘形状としており,アクセントパネルの具体的形状が異なっている。
 また,本件意匠のアクセントパネルの上下中央部分は,2つの平坦面からなる二等辺三角形の底辺部分をなし,上記2つの二等辺三角形が上下中央部分で接続され,当該接続部に明らかな折曲が見られる形状であるのに対し,被告意匠のアクセントパネル上下中央部分は,アクセントパネルに含まれない2つの頂点を結んでアクセントパネルを横断する折れ線部が水平方向に現れるものの,折曲していない点においても,アクセントパネルの具体的形状が異なっている。  さらに,アクセントパネル上下中央部分の具体的形状の差異により,本件意匠のアクセントパネルは,二等辺三角形の底辺部分をあえて折曲部分とした形状が際立っており,多面体としての外観上の装飾機能を強く感じるのに対し,被告意匠のアクセントパネル上下中央部分は,アクセントパネルに含まれない2つの頂点を結んでアクセントパネルを横断する折れ線部が水平方向に現れたにすぎず,折曲していないため,看者にとって単なる折り目として認識されるにすぎない点において,そこから受ける美観が異なる。さらに,アクセントパネルの縦の長さと中央部分の幅の比は,本件意匠では約8対1,被告意匠では約4対1である点も異なる。
 本件意匠においては,物品である包装用箱の開口部は破線部で示され,その開口部が設けられた三角錐形状の面とは別の面にアクセントパネルが配置されているのに対し,被告意匠においては,アクセントパネル自体が包装用箱の開口部として配置されている点が異なる。

商標登録ならおまかせください

 
被告商品

商標登録ならおまかせください

  ウ 判断
 上記のとおり,本件意匠と被告意匠とは,本件意匠の要部を構成する(三角錐形状の天頂に位置する点から底面を形成する点に至るまでの全体にわたって形成されている)アクセントパネルの具体的形状において,差異があるところ,直線で構成された略菱形状は,一般的にシャープで固い印象を与えるのに対し,曲線で構成された略紡錘形状は,一般的に丸く,やわらかな印象を与える。また,アクセントパネル上下中央部分の具体的形状の差異により,本件意匠のアクセントパネルは,二等辺三角形の底辺部分をあえて折曲部分とした形状が際立っており,多面体としての外観上の装飾機能を強く感じるのに対し,被告意匠のアクセントパネル上下中央部分は,アクセントパネルに含まれない2つの頂点を結んでアクセントパネルを横断する折れ線部が水平方向に現れたにすぎず,折曲していないため,看者にとって単なる折り目として認識されるにすぎない点において,そこから受ける美観が異なる。さらに,アクセントパネルの縦の長さと中央部分の幅の比が,本件意匠では約8対1であり,ほっそりと鋭い感じを与えるのに対し,被告意匠では約4対1であり,でっぷりとゆるやかな印象を与える。したがって,本件意匠と被告意匠とは,上記の点において美観を共通にするものとはいえない。
 また,本件意匠は,部分意匠であるため,類否判断に当たっては,当該意匠それ自体のみならず,当該部分の物品全体における位置等についても参酌すべきことは,前記1のとおりであるところ,本件意匠では,アクセントパネルとは別の面に包装用箱の開口部が設けられ,アクセントパネルは開口部としての機能を有していないのに対し,被告意匠では,アクセントパネルが開口部として配置されていることにより,開口部としての機能を有している点においても差異がある。本件意匠に係る物品である包装用箱の機能として,収納された物品を取り出すことは必須であることからすると,開口部の配置は,包装用箱の需要者たる事業者や箱に収納された品物を購入する一般消費者にとってみれば,大きな差異であるというべきで,本件意匠と被告意匠とは,この点においても美観を共通にするものとはいえない。
 そして,本件意匠と被告意匠とは,前記の差異点,とりわけ上述したところにより,看者に対し全体として異なる美観を与えるものであり,前記の共通点は,差異点が看者に与える美観の差異を凌駕するものとは認められない。
 したがって,被告意匠が本件意匠に類似するとはいえない。

 当審における当事者の主張に対する判断

 さらに,原告は,被告意匠の開口部については,外観上現れた差異ではなく,本件意匠においては登録の範囲には含まれない部分であるから,意匠の対比において斟酌できない旨主張する。
 しかし,意匠の当該部分に着目する場合に,当該形状から受ける単なる美観だけではなく,それが物品においてどのような機能と結び付いているかによって,需要者の払う注意力の程度や,そこから受ける印象,感銘力が異なるのは当然のことである。本件意匠と対比されるべき被告意匠におけるアクセントパネルは,前記のとおり,開口部としての機能を有するものであることから,それを差異として認識し,相違点として認定することに誤りはない。
 また,原告は,被告意匠のアクセントパネル部が開口部を兼ねたものであっても,この種物品の流通時には,開口部は接着等によって閉じられた状態であるのが一般的である上,開口状態が外観に表れたものでなく,その態様も普通に知られた態様であるので,注意を惹くものでない旨主張する。

 しかし,本件意匠に係る物品が包装用箱である以上,物を出し入れする包装用箱の開口部の位置,形状がいかなるものかについては,一般消費者のみならず,取引業者も関心を持つのが通常であるところ,被告意匠のように略紡錘形状のパネルが2枚重ねられて蓋を形成するのは,原告も主張するとおり,特に目新しい形態ではなく,被告商品の開口部に貼られたテープの存在や,パネルが2枚重なった開口部分の様子,他の面に開口部らしき部分を有さないところから,アクセントパネルが蓋であることは,外観からも容易に認識できるものである。そして,このような蓋は,斬新なものではなく,看者が,蓋としての機能を有するアクセントパネルに直ちに着目するとはいえないとしても,前記のとおり,看者にとって,当該形状から受ける単なる美観だけではなく,それがどのような機能と結び付いているかによって,注意力の程度や,そこから受ける印象,感銘力が異なるのは当然のことである。そうすると,前記のとおり,多面体の1面として注意を惹く部分であるアクセントパネルが,被告意匠において開口部蓋としての機能をも有することは,看者に異なる印象を与え,専ら装飾としてのシャープで洗練されたイメージのアクセントパネルを有する本件意匠とは,異なる美観を生じさせ得るものと認められる。
したがって,原告の主張は採用できない。

検 討

 判決に賛成。

 部分意匠の類否判断に際しての当該部分の用途機能の考慮

 意匠とは物品(物品の部分を含む)の形態である(意匠法2条1項)から、対比する意匠が類似するためには、該意匠に係る物品が類似することが必要である。この場合にいう「意匠に係る物品の用途及び機能が同一又は類似であること」とは、物品の詳細な用途及び機能を比較した上でその類否を決するまでの必要はなく、具体的な物品に表された形態の価値を評価する範囲において、用途(使用目的、使用状態等)及び機能に共通性がある物品であれば、物品の用途及び機能に類似性があると判断するに十分である。意匠に係る物品の用途(使用目的、使用状態等)及び機能に共通性がない場合には、意匠は類似しない1)
 部分意匠の類否判断に際しては、① 部分意匠の意匠に係る物品と公知の意匠の意匠に係る物品とが同一又は類似であること,の他に ② 部分意匠の部分の用途及び機能が同一又は類似であること,を要するとされる。
 当該部分の用途機能は、当該部分の形態の構成要素(形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合)にも含まれないにもかかわらず、部分意匠の類否判断に際して、当該部分の用途機能の類否について検討を要するか否かが問題となる。

 本件判旨が、当該部分(部分意匠が含むアクセントパネル)の用途機能の類否の検討の必要性の根拠として、H19・1・31〔プーリー事件〕2)を挙げている。しかしながら、この判決では、一般論として「部分意匠においては,部分意匠に係る物品とともに,物品の有する機能及び用途との関係において,意匠登録を受けようとする部分がどのような機能及び用途を有するものであるかが確定されなければならない。」ことを示しているだけであり、あてはめ(事実の評価)では
「・・・そうすると,本願実線部分と本件相当部分との間に存在する位置の差異によって,本願意匠と引用意匠は,看者に対して,全く異なった美感を与えるものというほかないのであり,上記の位置の差異は,本願意匠と引用意匠の形状自体の共通点を凌駕し,両意匠に異なった美感をもたらすというべきである。」
と判旨する。つまり、部分の位置に差異があるため(部分の用途及び機能について検討するまでもなく)両意匠は類似しないと認定した。

 別判決として、H20・5・26 H19年(行ケ)第10390号〔木ねじ事件〕4)がある。この判決では,物品の共通性は,意匠同士を対比し各物品に表された形態が需要者等にいかなる美感を与えるのかを評価判断する前提として,物品の用途及び機能が同一又は類似であることが必要とされるものであり,この評価判断に必要十分な範囲を超えて物品の用途及び機能の同一性又は類似性が要求されるならば,正当な類否が妨げられる。このことは,物品の部分の共通性についても同様であると判旨する。

 本判決は,「看者にとって,当該形状から受ける単なる美観だけではなく,それがどのような機能と結び付いているかによって,注意力の程度や,そこから受ける印象,感銘力が異なるのは当然のことである。そうすると,前記のとおり,多面体の1面として注意を惹く部分であるアクセントパネルが,被告意匠において開口部蓋としての機能をも有することは,看者に異なる印象を与え,専ら装飾としてのシャープで洗練されたイメージのアクセントパネルを有する本件意匠とは,異なる美観を生じさせ得るものと認められる。」と判旨する。つまり、原告意匠と被告意匠のアクセントパネルに対する需要者の注意力の強さを見極める手段として,該部分の用途機能の差異を考察していると解する。
 なお、被告意匠の具体的構成態様として、「d アクセントパネルは,包装用箱の開口部として配置されている。」を挙げているが疑問である。被告意匠に形態として表されていないと考える。

1)意匠審査基準(第2章 新規性・創作非容易性)

2)知財高判2007(H19)・1・31 H18(行ケ)10317号「プーリー事件」

 しかし,物品全体の意匠は,「物品」の形状等の外観に関するものであり(意匠法2条1項),一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得ないところ,「物品の部分」の形状等の外観に関する部分意匠においても同様であると解されるから,部分意匠においては,部分意匠に係る物品とともに,物品の有する機能及び用途との関係において,意匠登録を受けようとする部分がどのような機能及び用途を有するものであるかが確定されなければならない。そして,そのように意匠登録を受けようとする部分の機能及び用途を確定するに当たっては,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。また,意匠登録を受けようとする部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置し,どのような大きさを有し,物品全体に対しどのような割合を示す大きさであるか(以下,これらの位置,大きさ,範囲を単に「位置等」ともいう。)は,後記2(2)のとおり,意匠 登録を受けようとする部分の形状等と並んで部分意匠の類否判断に対して影響を及ぼすものであるといえるころ,そのような位置等は,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。部分意匠は,物品の部分であって,意匠登録を受けようとする部分だけで完結するものではなく,破線によって示された形状等は,それ自体は意匠を構成するものではないが,意匠登録を受けようとする部分がどのような用途及び機能を有するといえるものであるかを定めるとともに,その位置等を事実上画する機能を有するものである。

4)知財高判2008(平20)・5・26 H19(行ケ)10390号「木ねじ事件」

 また原告は,本件登録意匠の上面に設けられた駆動孔は平面視正方形状穴であるのに対し,引用意匠の当該部分の上面に設けられた駆動孔は十字状穴であって駆動穴としての機能を異にするから,本件登録意匠と引用意匠の当該部分の用途及び機能は異なると主張する。
 しかし,ねじの頭部の上面に設けられた駆動穴が平面視正方形状穴であるか十字状穴であるかという点については,本件登録意匠と引用意匠の当該部分の形態の差異をあらわすものとして,両意匠の当該部分の形態を対比し全体的に観察する中で類否判断にいかなる影響を及ぼすものであるかが検討されるべき事項であって,物品の当該部分の用途及び機能が共通性を有するか否かの判断において検討されるべきものではない。
 なぜなら,物品としての共通性は,意匠同士を対比しそれぞれの物品に表された形態が取引者又は需要者にいかなる美感を与えるのかを評価判断する前提として,対比される意匠同士の物品の用途及び機能が同一又は類似であることが必要とされるものであり,上記評価判断に必要十分な範囲を超えて物品の用途及び機能の同一性又は類似性が要求されるならば,かえって上記評価判断を正当に行うことが妨げられてしまうからである。そして,このことは物品全体についての用途及び機能の共通性にとどまらず,物品の当該部分についての用途及び機能の共通性に関しても同様である。
 上記において検討したとおり,本件登録意匠と引用意匠とは,意匠に係る物品がそれぞれ木ねじとタッピンねじである点で物品全体としての用途及び機能を共通にし,また物品の当該部分がいずれも(その上面に駆動穴が設けられている)ねじの頭部である点で物品の当該部分についての用途及び機能を共通にするものであるところ,かかる物品(当該部分)の共通性は両意匠の形態を対比して類否判断をする前提として必要十分なものである。

以 上

 高等裁判所・知財高裁・控訴事件裁判についてご相談を承ります。

 個人情報のお取扱いについてホームページ利用規約↑ ページトップに戻る← 前のページに戻る