ありがとう事件|newpon特許商標事務所

商標登録ならおまかせください

結合商標の類否   ありがとう事件

知財高判2018(H30).6.21 H30(行ケ)10002 審決取消請求事件

事実の概要

1 本件は,原告が本願商標の拒絶査定に対する不服審判を請求したところ,特許庁(被告)が請求棄却審決(以下「本件審決」という。)をしたため,原告が審決の取消しを求める本件訴訟を提起したものである。

2 本願商標は、「ありがとう」の文字を標準文字で書してなり、第35類に含まれる役務を指定する。審決の理由は,本願商標と,引用商標A及び引用商標B(併せて「引用商標」ともいう。)は類似する商標であって,本願商標の指定役務と引用商標の指定役務についても類似するものであるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当し,登録できないというものである。

判 旨

 請求棄却、審決認容。裁判所は、本願商標と引用商標が類似するので商標法4条1項11号に該当するとした本件審決を認容した。

1 取消事由1(本願商標と引用商標Aとの類否判断の誤り)について
(2) 本願商標
 本願商標は,「ありがとう」の文字を標準文字で表してなるものである。そして,「ありがとう」の語は,「感謝の意をあらわす挨拶語」の意味を有する(乙7)。br />  したがって,本願商標からは,「アリガトウ」の称呼,及び「感謝の意をあらわす挨拶語」といった程度の観念がそれぞれ生じる。

(3) 引用商標A
ア 引用商標Aは,上部が丸みを帯びて半円形状となっており,下に向かって幅が徐々に狭くなっている赤色の背景に,鈴を付けて右前足を挙げた招き猫の上半身と,当該招き猫の下部に左前足で支持されるように描かれた赤色で縁取りされた白色無地の扇形とで構成される図形と,当該扇形の内側に黒色の明朝体風の書体で横一列に「ありがとう」の文字が記載されたもので,結合商標と解される。
イ 引用商標Aの構成中,「ありがとう」の文字部分は,図形の内部に記載されているものの,引用商標Aの中央下部に位置し,商標の横幅いっぱいの大きさがある白色無地の扇形の中というひときわ目立つ場所に,当該扇形の横幅全体を使うほどの大きさで,黒色の読み取りやすい書体で明瞭に記載されているから,外観上,主として招き猫とそれが支持する扇形とからなる図形部分(招き猫の図形部分)と一見して明確に区別して認識できる。そして,「ありがとう」の語は,平仮名5文字からなる極めて平易なものであって,称呼しやすく,感謝の意を表す際に日常的に多用される馴染みのある言葉であることを考え合わせると,「ありがとう」の文字部分は,引用商標Aを見る者に強い印象を与えるとともに,その注意を強く引くものであると認めるのが相当である。
これに対し,招き猫の図形部分と「ありがとう」の語とが,観念的に密接な関連性を有しているとは考え難いし,一連一体となった何かしらの称呼が生じるともいえない。また,招き猫の図形部分及び「ありがとう」の文字部分は,指定役務との関係で,当該役務の質等を表すものともいえない上,このほかに各部分が単独では出所識別機能を有しないと認めるに足りる的確な証拠も見当たらない。
 これらの事情を総合すると,招き猫の図形部分と「ありがとう」の文字部分とが,分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認めることはできないから,当該図形部分と当該文字部分は,それぞれが独立して出所識別機能を有する要部であるというべきである。 ウ 以上によれば,引用商標Aにおいては,その全体から「アリガトウ」の称呼及び「感謝の意を表す招き猫」といった程度の観念がそれぞれ生じると認められる。
 そして,招き猫の図形部分からは特定の称呼を生じないものの,「招き猫」との観念が生じ,また,「ありがとう」の文字部分から,「アリガトウ」の称呼及び「感謝の意をあらわす挨拶語」といった程度の観念がそれぞれ生じると認められる。

(4) 本願商標と引用商標Aの類否
 本願商標と,引用商標Aの要部である「ありがとう」の文字部分とは,外観上,書体の相違以外は同一であり,さらに,上記(2)及び(3)において説示したとおり,両者は称呼上も観念上も同一である。
 したがって,本願商標と引用商標Aとは,出所について誤認混合を生ずるおそれがあり,両商標は類似するものというべきである。

引用商標A
(引用商標A)
引用商標B
(引用商標B)

商標登録ならおまかせください

2 取消事由2(本願商標と引用商標Bとの類否判断の誤り)について
(1) 本願商標
 本願商標については,上記1(2)において認定したとおりである。

(2) 引用商標B
ア 引用商標Bは,上部に青色の手書き風の書体で横一列に「ありがとう!」の文字が記載され,その下部に,右に45度程度傾斜した青色の楕円を背景として,上から薄茶色で大きく「50th」とその下に小さく「Anniversary」の斜字体の欧文字が概ね二段に横書きされ,その下に2つの異なる形式の東海道新幹線の先頭車両を表した図形が二段に描かれ,更にその下に薄茶色で「東海道新幹線」及び「開業50周年」の文字が小さく二段に横書きされたもので,結合商標と解される。
イ 引用商標Bの構成中,「50th」及び「Anniversary」の欧文字部分,新幹線車両の図形部分並びに「東海道新幹線」及び「開業50周年」の文字部分は,楕円の背景部分に概ね納まっている。一方,「ありがとう!」の文字部分は,当該楕円の背景部分から余白を伴って完全に離れて記載されている上,引用商標Bの上部という目立つ位置に,当該商標の横幅に相当する大きさで記載されていることから,外観上,その余の部分と一見して明確に区別して認識できる。また,「ありがとう!」の文字部分は,平仮名5文字の末尾に感嘆符を組み合わせた極めて平易なものであって,当該文字部分中の「ありがとう」の語は,称呼しやすく,感謝の意をあらわす際に日常的に多用される馴染みのある言葉である。さらに,この語の末尾に感嘆符が付されていることを考え合わせると,「ありがとう!」の文字部分は,引用商標Bを見る者に強い印象を与えるとともに,その注意を強く引くものであると認めるのが相当である。
これに対し,引用商標B中に記載されている全ての文字部分と新幹線車両の図形を全体として観察すると,観念上,「東海道新幹線が開業50周年を迎えたことに対し感謝の意を表する」といった程度の理解が可能であるものの,「ありがとう!」の文字部分とその余の部分とが,常に一体として把握しなければならないほどに観念的に強固に結びついたものであるとまではいい難い。また,引用商標B全体からは,「アリガトウフィフティースアニバーサリートウカイドウシンカンセンカイギョウゴジュッシュウネン」の称呼が生じるが,明らかに一気に称呼するには余りにも冗長である。さらに,「ありがとう!」の文字部分及びその余の部分は,指定商品・役務との関係で,当該商品・役務の品質等を表すものともいえない上,このほかに各部分が単独では出所識別機能を有さないと認めるに足りる的確な証拠も見当たらない。
これらの事情を総合すると,引用商標Bを構成する「ありがとう!」の文字部分とその余の部分とが,分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認めることはできないから,当該文字部分とその余の部分は,それぞれが独立して出所識別機能を有する要部であるというべきである。 ウ そして,「ありがとう!」の文字部分中,感嘆符は感嘆や強調を表す符号にすぎないから(乙9),当該文字部分からは,「アリガトウ」の称呼,及び「感謝の意をあらわす挨拶語」といった程度の観念がそれぞれ生じるというべきである。
エ 以上によれば,引用商標Bにおいては,その全体から「アリガトウフィフティースアニバーサリートウカイドウシンカンセンカイギョウゴジュッシュウネン」の称呼及び「東海道新幹線が開業50周年を迎えたことに対し感謝の意を表する」といった程度の観念がそれぞれ生じると認められる。
 他方,「ありがとう!」の文字部分から「アリガトウ」の称呼,及び「感謝の意をあらわす挨拶語」といった程度の観念が,その余の部分(図形結合標章部分)から「フィフティースアニバーサリートウカイドウシンカンセンカイギョウゴジュッシュウネン」の称呼,及び「東海道新幹線が開業50周年を迎えた」といった程度の観念がそれぞれ生じると認められる。

(3) 本願商標と引用商標Bの類否
 本願商標と,引用商標Bの要部である「ありがとう!」の文字部分とは,外観上,感嘆符の有無及び書体の相違以外は同一であり,さらに,上記(1)及び(2)において説示したとおり,両者は称呼上も観念上も同一である。
 したがって,本願商標と引用商標Bとは,出所について誤認混合を生ずるおそれがあり,両商標は類似するものというべきである。

3 原告の主張について
 原告は,商標の類否は,商標の全体を観察して判断するのが原則であるところ,引用商標において,識別力の弱い「ありがとう」及び「ありがとう!」の各文字部分をわざわざ抽出して分離観察するのは相当でないとし,これを前提として本願商標と引用商標との外観,称呼及び観念を対比すると,両商標は類似しないと主張する。
 しかし,上記1(3)及び2(2)において説示したとおり,引用商標中,「ありがとう」及び「ありがとう!」の各文字部分は,その余の図形部分と外観上明確に区別して認識できる態様で記載されている上,平仮名5文字又はその末尾に感嘆符を付しただけの平易なもので,馴染みのある称呼しやすい言葉であることから,引用商標を見る者に強い印象を与えるとともに,その注意を強く引くものであることは明らかである。また,当該文字部分が,指定商品・役務との関係で,単独で出所識別機能を有しないと認めるに足りる的確な証拠も見当たらない。
 したがって,当該文字部分を分離観察することが相当でないとの原告の主張を採用することはできないから,これを前提とする本願商標と引用商標の類否に係る主張も失当といわざるを得ない。

商標登録ならおまかせください

検 討

 判決に賛成

 本判決は、結合商標の類否判断に関する。本判決では、引用商標の「ありがとう」の文字部分についても商標の要部であると認定した。

 判断枠組みは、次の最高裁判断に基づく。
 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきところ,その際には,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,しかもその商品等の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2 号399頁参照)。
 また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについては,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合は,その構成部分を抽出し,当該部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生 じないと認められる場合等には,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許される(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。

 しかしながら、引用商標の禁止権について、該商標を構成する「ありがとう」の文字部分に与えることについては疑問を感じる。

以 上

 高等裁判所・知財高裁・控訴事件裁判についてご相談を承ります。

 個人情報のお取扱いについてホームページ利用規約↑ ページトップに戻る← 前のページに戻る