欧州連合商標とはどのようなシステムなのでしょうか?|newpon特許商標事務所

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 欧州連合(EU)加盟国において保護される欧州連合商標(EUTM, Europian Union Trade Mark)についてご説明します。
 ※ 2016年3月23日から、「OHIM(欧州共同体商標意匠庁)」は「EUIPO(European Union Intellectual Property Office:欧州連合知的財産庁)に名称が変更され、「CTM(共同体商標)」も「EUTM(European Union trade mark:欧州連合商標)」に変更されました。

 

欧州連合商標(EUTM)

 EUTMとは、EUIPO(欧州連合知的財産庁)における1件の登録で欧州連合(EU, European Union)加盟国全体をカバーする商標です。EUTMは国内の商標権に影響を及ぼしませんので、国内の商標出願登録をすることも、EUTMの出願をすることも、両方に出願することもできます。

EUTMの特徴

 EUTMには、特有な制度がありますので、紹介します。

1 単一性

 単一の出願・登録で加盟国全域をカバーします。単一法のもと、単一の審査が行われ、欧州連合(27加盟国)における排他的権利が付与されます。すべての有効なEUTM出願(登録)は、自動的に新加盟国にも拡張されます。しかしながら、登録商標を使用する権利は、既存の国内商標で抵触する場合には認められません。
 EUTMは、欧州連合の全加盟国において不可分に有効な統一効力を有します。地理的な保護を求めて特定の加盟国に限定することはできません。共同体全体で等しい効力を有しています。
 EUTMは、国内登録そのものを代替するものではなく、国内商標は引き続き重要な機能を担っています。このように2つの制度(EUTMと国内登録)は並存しています。。

コンバージョン(Conversion, 変更)Art.108;109;110 EUTMR

 EUTM出願の出願人又は登録商標の所有者は、加盟国において、そのEUTM出願(登録)を国内商標出願へ変更申請することができます。これは、EUTM出願が、EUTMによる先行商標のみではなく、EU加盟国すべての国内先行商標の存在によって、その出願が異議申立によって拒絶されるので、かかる場合の救済策として先行商標の存在しないEU加盟国で国内登録を得ることを可能にすべく制定されたものです。
 したがって、変更手続は、次の状況(変更の根拠)にて可能です。
 ■ EUTM出願又はEUを指定する国際登録が最終的にEUIPO(欧州連合知的財産庁)から拒絶された場合
 ■ EUTM出願が出願人により取り下げられた場合
 ■ 区分手数料又は登録料が支払期限内に支払われないことによりEUTM出願が取下げ擬制された場合
 ■ 放棄・非更新・EUIPO又は裁判所による無効取消しなどの理由によりEUTM登録又はEC指定が失効した場合
 しかしながら、EUTM登録又はEUを指定する国際登録が不使用を根拠に取り消されている場合やEUTM出願(登録)又はEUを指定する国際登録を失効させる根拠が、対象加盟国にお いて同商標登録を不可能にさせる場合には変更できません。

 (1) コンバージョンの申請

  

 申請は、通常3か月の期限以内に庁に提出する必要があります。その商標、所有者、商品・役務のリスト、変更が申請される加盟国の記載が必要です。変更申請に不備がなければ、庁は指定国官庁に申請の写し、変更されるEUTM又は国際登録案件の詳細情報を申請時に提出された国内裁判所判決の写し等の付属書面を含めて送付します。   

 (2) コンバージョンの長所と短所

  

 変更の主な理由は、加盟国における保護を維持することです。
 各加盟国において、国内への変更出願は、出願日及び該当する欧州連合内における部分的なEUTMの移転はできません。そこで、ビジネスが地理的に分割されているのであれば、EUTM権利者はEUTMを分割し、EUTMを国内登録に変更し、その国内商標を移転することができます。これがEUTMを変更するもう1つの理由です。
 短所としては、その後、それぞれの出願手続きを進めるためは当該各選択官庁への国内出願手数料支払いが必要となります。   

2 シニオリティ(Seniority)Art.34;35 EUTMR

 一定の要件を満たす場合に、既存の国内商標登録を、先行商標としての利益を保全しつつEUTM登録に統合できる制度です。この制度によって先登録国内商標を放棄しても、存続していたのと同様の権利を享受でき、さらに、単一のEUTM登録に統合されるので、管理が容易になります。
 EUTMは、国内保護制度を補完するものですから、出願人又は権利者が、同一の商品・役務を指定する同一の先行国内商標を有している場合、シニオリティを主張することにより、先行(国内)商標の更新手続をしなくとも先行商標権を維持することができます。シニオリティは欧州連合商標規則において規定されており、EUTM権利者が先の国内商標を放棄又は消滅させる場合、当該権利者は先の国内登録が継続して維持されていたならば有していたであろう権利と同じ権利を有すると規定されています。
 出願時、出願から2か月以内、又は登録後に先の国内登録のみならず欧州連合における効力のある国際登録についてもシニオリティを主張することができます。
 その主張に際して、主張を証明する書面を前記期間に提出し、トリプル・アイデンティティルール(tripleidentity rule; EUTM及び国内登録が同一商標を対象とし、同一所有者に属し、同一商品・役務を含むこと)を守り、先の商標登録が有効に存続していなければなりません。

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3 使用義務

 EUTM登録は、登録後5年以内に使用されないと不使用取消審判の対象となります(Art.15 EUTMR)。なお、非登録使用権者(non-registered licensee)の使用も使用とみなされます。また、1つのEU加盟国で使用していれば足ります。

 出願後に、EUIPOによる方式審査と絶対的登録要件(識別力)に関する調査が行われ、次いで各国の商標庁による調査が行われます。この調査結果(調査報告書)は出願人に送付されます。

登録可能な商標

 視覚的に表現可能な商標は登録されます。具体的には、文字、図形、色彩若しくは色彩の組み合わせ、立体商標、音の商標です。においの商標については、登録例はあるようですが、ドイツの国内登録に関するECJの判決(EDEN SARL v OHIM ,Case T-305/04 27.10, 2005)以降登録例はありません。

EUTMR Article 4: Signs of which a Community trade mark may consist

 A Community trade mark may consist of any signs capable of being represented graphically, particularly words, including personal names, designs, letters, numerals, the shape of goods or of their packaging, provided that such signs are capable of distinguishing the goods or services of one undertaking from those of other undertakings.

EUTM出願

 EUTM出願の際は、出願方法としてEUIPOに直接出願をするか、欧州各国の商標庁に出願するかのどちらかを選ぶことができます。

1 審 査

 出願後に、EUIPOによる方式審査と絶対的登録要件に関する調査が行われます。絶対的登録要件は次のとおりです(Art.15;38 EUTMR)。
 ■ 識別力のない商標
 ■ 商品・役務の種類、品質、量、目的、価値、地理的出所、商品の生産の時期、役務の提供の時期、その他の特徴のみを指標する商標
 ■ 慣用商標
 ■ 公序良俗に反する商標
 ■ 商品・役務の性質、品質、地理的出所等について欺瞞的な商標等
 上記絶対的登録要件を満たさない場合にも、使用による識別力を立証すれば、当該要件を満たすことができる。  

 識別力に関するECJ判決例:BABY-DRY事件、DOUBLE MINT事件、NEWBORN BABY事件   

2 調 査

(1) 指定国官庁の調査報告書

 EUIPOにより方式要件を具備すると審査されたEUTM出願書類の写しは、指定国官庁へ送付されます。国内調査を行うことを宣言したEU加盟国のうち、出願人が要求した指定国の官庁は国内調査を行い、調査報告はEUIPOに送付されます。  

(2) EUIPOの調査報告書

 EUIPOは、相対的拒絶理由については異議申立がないと審査しませんが、出願日付与後、先行EU商標について調査し、その調査報告書を出願人に送付します。
 また、当該先行商標の所有者に、調査報告書に引用された旨の通知(sueveillance letter)を送付します(Art.8(7)EUTMR)。
 出願人には、この調査報告書により放棄等の検討の機会が与えられ、このsueveillance letterにより先行商標の所有者には異議申立の検討の機会が与えられます。  

Registration process at EUIPO
Grounds for Refusal

 

What happens during the examination period
What happens during the opposition period

 

3 異議申立

 出願人が調査報告書を受け取ってから少なくても1か月経過後に出願公告され、公告の日から3か月が異議申立期間となります。当該期間内に異議申立がなかった場合、異議申立が認められなかった場合、又は異議申立の認容に対する不服申立が認められた場合には、EUIPOに登録されます。

(1) 異議申立手続の流れ

  

 手続のフローは次のとおりです。

   出願公告
    ↓  (3か月)
   異議申立
    ↓  (クーリングオフ期間 2か月)
   手続開始
    ↓  (2か月)
   異議申立人証拠提出
    ↓  (2か月)
   出願人答弁書提出
    ↓  (2か月)
   異議申立人弁駁書提出
    ↓
   異議決定  

(1) 異議申立手続の流れ

 

所非値てのEUIPOにより方式要件を具備すると審査されたEUTM出願書類の写しは、指定国官庁へ送付されます。国内調査を行うことを宣言したEU加盟国のうち、出願人が要求した指定国の官庁は国内調査を行い、調査報告はEUIPOに送付されます。  

(2) 異議理由

 先行商標を根拠とする相対的登録要件違反に限定され、しかも、該先行商標は異議申立人の所有するものに限られます。

 相対的登録要件を構成する先行商標(Art.8 EUTMR)
 ■ 先行EU商標ないしEUTM出願
 ■ EU加盟国における先登録、先願
 ■ EU加盟国において効力を有する、先行マドリッド、マドプロ登録
 ■ EU加盟国における先登録、先願公序良俗に反する商標
 ■ EU加盟国の1における単なる地域的な優位性以上を具備した、取引上使用されている未登録商標ないし標識(sign)
 ■ EU加盟国において周知の商標(パリ条約6条の2)

 相対的登録要件が適用される範囲(Art.8 EUTMR)
 ■ 出願商標が先行商標と同一又は類似、かつ指定商品(役務)が同一又は類似
 ■ 出願商標が先行商標と同一又は類似で指定商品(役務)が非類似の場合であって、該先行商標が名声を有し、その識別性ないしは名声に関し出願人に不当な利益を与え、損傷を被るとき
 

4 権利・登録の維持

(1) 使 用

 

 いずれかのEU加盟国で使用していれば足ります。  

(2) 存続期間と更新

 商標権の存続期間は、出願日から10年間です。登録は、10年ごとに何度でも更新することができます(Art.46 EUTMR)。

 

EUTMの長所と短所

 <メリット>

1出願でEU加盟国すべてをカバーする商標権が取得できます。更新などの手続も一度で済むため、容易な商標管理が実現できます。  
いずれかのEU加盟国で商標を使用していれば不使用による取り消しを免れることができます。  
EU加盟国の多くの国で出願する場合、各国毎の出願より廉価です。  

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 <デメリット>

一度拒絶になるとその効力がすべてのEU加盟国に及びます。ただし、拒絶がなかった国については通常の各国出願に切り換えることができます。  
取り消し、無効についても権利は一体として扱われるので、いずれかのEU加盟国で取り消し、無効が確定すると、他のEU加盟国においても権利が消滅します。  
商標権の譲渡は、国ごとにはできません。  
方式と絶対的拒絶理由の審査だけが行われ、相対的拒絶理由が審査されないで登録になりますので、同一又は類似する商標が多数併存します。  
審査結果が引用商標権者にも送付されるので、異議申し立てをうける可能性が高いです。  
Pros of EUTM
Cons of EUTM

 

リンク

 ■ 欧州連合知的財産庁(EUIPO):https://euipo.europa.eu/ohimportal/
 ■ eSearch : https://euipo.europa.eu/ohimportal/en/databases
 ■ 特許庁サイト(日本語):  商標ハーモ指令      商標理事会規則      商標委員会実施規則


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